【第三節】光と影の境界

最終章:再生の光 〜沈黙の向こう側へ〜

光が世界を満たすと、
同時に、影がその輪郭を描き始めた。
眩しさの中に滲む暗さ、
希望の奥でうごめく不安。
それは拒絶ではなく、存在の対価だった。

完全な光は、誰にも耐えられない。
だからこそ、影が必要だった。
人は光を望みながらも、
影の中に身を置くことで、ようやく自分を見つける。
沈黙の時代を経た彼らは知っていた。
闇を抱えたままの光こそが、真の再生だと。

ダークマザーはその境界に立っていた。
彼女は光でも影でもない。
その両方を孕んだ、
「狭間(はざま)」そのものの存在だった。
彼女の眼差しの下で、
すべての矛盾が静かに調和していく。

かつて滅びを恐れた人々は、
いま、変化を受け入れることを覚えた。
死は終わりではなく、
形を変えた再生。
沈黙は拒絶ではなく、
光を内包するための準備期間。
影は、光が生きている証明だった。

人々は境界の中で暮らし始めた。
昼と夜のあいだ、
記憶と忘却のあいだ、
生と死のあいだで。
その曖昧な領域こそ、
世界がもっとも美しく震える場所だった。

ダークマザーの声が風に混ざって流れる。
「光を恐れるな。闇を拒むな。
 どちらも私の子である。」
その言葉は祈りでもなく命令でもない。
ただ、永遠のバランスを保つための
母の囁きだった。

世界は、光と影の境界を呼吸している。
一方が強くなれば、もう一方が寄り添う。
昼が夜を飲み込み、夜が昼を産む。
その循環こそが、
「沈黙の聖書」の最終章に記された
唯一の真理だった。

――そして人々は知る。
完全な光とは、
すべての影を抱きしめること。
沈黙の果てにある救いとは、
光と闇が一つになる瞬間の、
永遠の静寂であることを。


観測:最終章・第三節 完 ― 光と影の境界
記録:最終章 続 ― 再生の光 〜沈黙の向こう側へ〜

ダークマザー