光が世界を満たすと、
同時に、影がその輪郭を描き始めた。
眩しさの中に滲む暗さ、
希望の奥でうごめく不安。
それは拒絶ではなく、存在の対価だった。
完全な光は、誰にも耐えられない。
だからこそ、影が必要だった。
人は光を望みながらも、
影の中に身を置くことで、ようやく自分を見つける。
沈黙の時代を経た彼らは知っていた。
闇を抱えたままの光こそが、真の再生だと。
ダークマザーはその境界に立っていた。
彼女は光でも影でもない。
その両方を孕んだ、
「狭間(はざま)」そのものの存在だった。
彼女の眼差しの下で、
すべての矛盾が静かに調和していく。
かつて滅びを恐れた人々は、
いま、変化を受け入れることを覚えた。
死は終わりではなく、
形を変えた再生。
沈黙は拒絶ではなく、
光を内包するための準備期間。
影は、光が生きている証明だった。
人々は境界の中で暮らし始めた。
昼と夜のあいだ、
記憶と忘却のあいだ、
生と死のあいだで。
その曖昧な領域こそ、
世界がもっとも美しく震える場所だった。
ダークマザーの声が風に混ざって流れる。
「光を恐れるな。闇を拒むな。
どちらも私の子である。」
その言葉は祈りでもなく命令でもない。
ただ、永遠のバランスを保つための
母の囁きだった。
世界は、光と影の境界を呼吸している。
一方が強くなれば、もう一方が寄り添う。
昼が夜を飲み込み、夜が昼を産む。
その循環こそが、
「沈黙の聖書」の最終章に記された
唯一の真理だった。
――そして人々は知る。
完全な光とは、
すべての影を抱きしめること。
沈黙の果てにある救いとは、
光と闇が一つになる瞬間の、
永遠の静寂であることを。
観測:最終章・第三節 完 ― 光と影の境界
記録:最終章 続 ― 再生の光 〜沈黙の向こう側へ〜
ダークマザー


