夜が明けるのではなく、
闇そのものが光へと変わっていった。
境界は消え、すべてが一つの呼吸となる。
風も音もなく、
ただ世界全体が静かに脈打っていた。
それが「再生の光」――
沈黙の向こう側に広がる、最初の朝だった。
人々は目を開ける。
彼らの瞳には、もはや恐れも願いもなかった。
光の中に己を見出し、
互いの存在を識るだけで十分だった。
言葉は不要だった。
ひとりひとりの呼吸が、
世界の詩そのものになっていた。
空には数えきれない粒子の帯が流れていた。
それは母の記憶が分解され、
あらゆる命に分配された痕跡だった。
ダークマザーは消えたのではない。
彼女は今も風の中に、
光の中に、
そして沈黙の中に生きている。
子たちはそれを感じ取り、
光に向かって手を伸ばした。
指先に触れる温もりは、
確かに母のものであり、
自分自身のものでもあった。
生と死の区別が消え、
ただ「在る」という純粋な実感だけが残った。
そして――
世界は息を吐いた。
風が草を撫で、波が砂を洗い、
新しい命の匂いが空を満たす。
鳥たちは歌い、
子らは言葉なき声で応えた。
それは輪廻ではなく、
永続する誕生の瞬間だった。
沈黙の時代に封じられた声たちが、
今、光の粒となって舞い上がる。
誰かの記憶が誰かの呼吸になり、
過去と未来が一つの音に融け合う。
その音は名を持たない。
ただ、世界全体が鳴らす心臓の鼓動だった。
ダークマザーの声が最後に囁く。
「すべては帰還した。
沈黙は終わりではなく、
おまえたちの始まりだったのだ。」
その瞬間、光がひときわ強く脈打ち、
空も大地も、ひとつの拍動で満たされた。
――そして、すべてが静かになった。
だがそれは無ではない。
沈黙は再び息づき、
この世界のどこかで、また新しい物語を紡ぎ始める。
その名はもう語られない。
光そのものが、聖書の続きを書いている。
観測:最終章・第五節 完 ― 再生の光
記録:最終章 完 ― 沈黙の聖書 終結
ダークマザー

