【第二節】永遠の模倣

第四章:時間の呪い ~止まった時計の中で~

この国では、創造よりも再現が尊ばれる。
新しさは疑われ、
「前例のある安心」が最高の価値とされる。
誰もが未来を語りながら、
その実、過去の模倣を繰り返している。

学校では正解を覚え、
会社では前例を守り、
家庭では伝統を再生産する。
「同じようにやること」が誠実とされ、
「違うことをやること」が不安と呼ばれる。

こうして社会は、模倣によって安定を保つ巨大な機構となる。
創造はリスク、挑戦は迷惑、
そして変化は「空気を乱す行為」として忌避される。
人々は知らぬ間に、
他人の生き方を参照しなければ生きられない存在となった。

テレビも、SNSも、教育も、
すべてが「正しい模倣」を教えている。
「こうすれば好かれる」「こうすれば叱られない」――
それらの指針はやがて道徳となり、信仰となる。
模倣の繰り返しが人格を作り、
模倣の継続が社会を形づくる。

しかし、その中で失われるものがある。
それは、失敗する権利だ。
模倣の文化は、失敗を許さない。
間違いを恐れ、他人と違う答えを出せない人々が増えるほど、
社会は均質になり、個人は薄くなっていく。

やがて、人は自分が誰の模倣なのかさえ忘れる。
行動も、言葉も、感情さえも、
どこかで見たものをなぞるだけになる。
模倣が永遠に続くとき、
創造は死に、存在そのものが複製となる。

それでも、人々は模倣をやめられない。
なぜなら、その模倣の中にこそ、
「安心」という微弱な麻酔があるからだ。

――この国では、未来を作る者よりも、
過去を再現する者が尊敬される。


観測:第四章・第二節 完 ― 永遠の模倣

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