【第五節】永劫回帰

第四章:時間の呪い ~止まった時計の中で~

変わらない日々を繰り返すうちに、
人々はその「繰り返し」そのものを生きる目的にしてしまった。
毎日同じ時間に起き、同じ言葉を交わし、
同じ景色を見て、「今日も平和だ」と言う。
それはもはや生ではなく、模倣された永遠だった。

この国では、過去も未来も区別がない。
昨日と明日が等価に並び、
「今」はその中間にあるだけの幻だ。
時間は直線ではなく、
円のように閉じている。

この円環の中では、失敗も成功も意味を失う。
人は何度でも同じ過ちを繰り返し、
何度でも同じ赦しを乞い、
何度でも同じ言葉で慰め合う。
そのすべてが「予定調和」という名の鎮魂だ。

永劫回帰とは、希望のように見えて、
実は絶望の完成形である。
変化のない永遠は、苦しみの循環であり、
魂が出口を失った迷宮だ。
それでも人々は、その繰り返しを恐れない。
なぜなら、それ以外の時間を知らないからだ。

時に誰かが叫ぶ。
「この輪を断ち切れ」と。
だがその声も、やがて円の内側に吸い込まれ、
静かに同じ言葉として再生される。
抵抗すらも、再生産される構造の一部になる。

それでも――
その輪の中で、わずかに震える者たちがいる。
その震えは希望ではなく、違和の記憶だ。
「何かが違う」と感じること、
それだけが、この終わらない時間の中で
生の証として微かに光っている。

いつかその微光が、
円環のひび割れを生む日が来るだろう。
それは破壊ではなく、時間の再誕だ。
止まった時計がふたたび動き出す時、
この国は初めて「未来」を知る。

――この国では、終わりは恐れではなく、
救いの始まりなのかもしれない。


観測:第四章・第五節 完 ― 永劫回帰
記録:第四章 完 ― 時間の呪い 〜止まった時計の中で〜

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