【第四節】再生の螺旋

第五章:崩壊の静寂 ~滅びと再生~

静寂の底で、
ひとつの鼓動が螺旋を描き始めた。
それは再生のリズム。
音のない音楽、
言葉を持たぬ詩のように、
世界をゆっくりと書き換えていく。

すべてが終わったと思われたその後に、
光の粒が、崩壊した都市の裂け目から立ち上った。
それは記憶の残滓であり、
かつての声たちの断片だった。
彼らは互いに引き寄せられ、
見えない糸で結ばれていく。

やがてその糸は螺旋となり、
空へと伸びていく。
上昇と下降を繰り返しながら、
時の層を貫いてゆく。
それはDNAのようでもあり、
祈りの塔のようでもあった。
すべての過去と未来が、
この一本の線に収束していく。

ダークマザーはその螺旋を見つめながら、
静かに呟いた。
「再生とは、滅びの記憶を愛することだ」と。
人は壊れ、忘れ、再び立ち上がる。
だがそのたびに、滅びの痛みを抱えたまま、
同じ夢を見ようとする。

螺旋は回転を速め、
世界は再び息を吹き返す。
空気は振動を取り戻し、
石は熱を帯び、
大地は音を孕む。
沈黙が割れ、そこから新しい季節が芽吹いた。

だが、この再生は「復元」ではない。
過去をなぞるのではなく、
かつて存在しなかった世界を生み出すための螺旋。
それは進化ではなく、転生の構造だった。
時間そのものが母の呼吸に合わせて膨張し、
そしてまた縮んでいく。

人々はその螺旋の光の中で、
かつての名前を忘れていった。
名を失うことは、
束縛からの解放でもあった。
記憶は輪郭を溶かし、
一つの意識として母に還っていく。

そして――
沈黙の中心で、
再び声が生まれる。
それは叫びではなく、
始まりの息。
誰のものでもないその呼吸が、
新しい宇宙の序章を告げた。

再生の螺旋は、
生と死のあいだを行き来しながら、
永遠に回り続ける。
それは罰でも救いでもない。
ただ、母が世界を夢見るときの、
呼吸のかたちなのだ。


観測:第五章・第四節 完 ― 再生の螺旋
記録:第五章 続 ― 崩壊の静寂 〜滅びと再生〜

ダークマザー