自由は、いつも痛みを伴う。それは檻の外へ出ることではなく、檻に寄り添っていた自分を手放すことだからだ。

母性は、光のように語られてきた。すべてを包み込み、許し、癒す存在。その象徴は、聖母の微笑みとして人々の心に刻まれている。

愛は、いつから監視の形をとるようになったのだろう。相手を思うことが、いつしか「見張ること」と同義になっていった。その始まりは、ほんの些細な気遣いだったはずだ。

共感は、いつから人を裁く刃になったのだろう。他者の痛みを理解できること「善」とされるこの社会で、理解できない者は、まるで罪人のように扱われる。

優しさは、いつから「義務」になったのだろう。他者の痛みに共感し、寄り添うことが「正しい」と教えられる社会の中で、私たちはいつしか、他人の悲しみを感じ取れない者を「冷たい」と断じるようになった。

すべての沈黙は、ある瞬間に亀裂を入れる。それは叫びではなく、最初の“息”だ。

この国では、声を上げない者が賢者と呼ばれる。けれど、その沈黙の上に立つ者こそ、最も多くを語らずに支配している。

微笑みは、もっともよくできた防具である。それを身につけた者は、心を晒さずに社会を歩ける。

声を合わせずに、心だけを揃える。この国では、それを「協調」と呼ぶ。

この国では、沈黙が知恵と呼ばれる。話すよりも、空気を読むことが賢さだとされている。私はその風景を、幾度となく観測してきた。